⚫︎ 消化器
消化管出血 gastrointestinal bleeding /gastrointestin
〔概念〕
出血源がTreitz靱帯より口側のものを上部消化管出血,肛門側のものを下部消化管出血と定義する.一般に吐血,下血,血便などの症状を有する病態を指す.
・上部消化管出血が口から吐出されたものを吐血,肛門から排泄されたものを下血(またはタール便)という.
・下部消化管出血では,血液が便とともに肛門から排泄されることが多く(糞便中への新鮮血混入,または表面に付着),これを血便という(新鮮血自体が排出されることもある).
〔原因・分類〕
1.上部消化管出血
・食道・胃静脈瘤破裂,胃・十二指腸潰瘍,急性胃粘膜病変(AGML),胃癌,Mallory-Weiss症候群,逆流性食道炎,胃粘膜下腫瘍,食道癌など
2.下部消化管出血
・虚血性腸炎,大腸憩室出血,薬剤性腸炎,痔核・裂肛,潰瘍性大腸炎,大腸癌,大腸ポリープ,Crohn病,小腸悪性腫瘍,Meckel憩室,感染性腸炎(アメーバ赤痢,腸管出血性大腸菌,カンピロバクター腸炎など)など
※上記のような消化管疾患に加え,肝胆膵疾患(膵癌,胆道癌など),血液疾患〔白血病,悪性リンパ腫,多発性骨髄腫,DIC,尿毒症,ITP,血友病,ビタミンK欠乏症(真性メレナ)など〕,膠原病〔悪性関節リウマチ,Schönlein-Henoch紫斑病(IgA血管炎)など〕,GVHD,アミロイドーシス,PD-1/PD-L1阻害薬(ニボルマブなど),CTLA-4阻害薬(イピリムマブ)による腸炎,腸間膜動静脈奇形,消化管血管異形成(参照A-19),仮性メレナなどでも消化管出血をきたしうる.
〔症状〕
1.口からの吐出:
胃内停滞時間や出血量により,鮮紅血やコーヒー残渣様の色調を呈する.
①暗赤色(コーヒー残渣様)➡胃病変を疑う.
②新鮮血➡食道病変を疑う.
※吐血と喀血の区別が困難なこともある.
2.肛門からの排出:
色調により,出血部位をある程度同定することが可能である.
①黒色(タール便)➡上部消化管からの出血(胃酸の影響を受ける)を考える.17
②赤褐色〜鮮血便➡横行結腸以下からの出血を考える.
※肛門に近いほど鮮紅色の血便となる.
③新鮮血➡S状結腸〜肛門部からの出血を考える.
〔検査・診断〕
バイタルサインの安定が確認できている場合,速やかに緊急内視鏡検査を行い出血源を同定する.
・腸閉塞(大腸癌由来を除く)や消化管穿孔には緊急上部消化管内視鏡検査は禁忌 .
➡事前にバイタルサインの確認,血液検査,画像検査などを必ず行う.
※出血性ショックに対しては,ルート確保後に緊急内視鏡検査を行う(相対禁忌).
・緊急内視鏡検査で出血源が同定できれば,そのまま内視鏡的止血へ移行する.17
・緊急内視鏡検査にて出血部位が明らかにならない場合(OGIB:参照A-19)は,選択的血管造影や出血シンチグラフィなどのRI検査が有用である.また,小腸病変を疑い,小腸カプセル内視鏡やバルーン内視鏡検査を行う.14,15
・問診では,肝硬変の有無(食道静脈瘤の検索),飲酒歴(肝硬変,Mallory-Weiss症候群の可能性),薬剤歴(NSAIDs 14,15,抗凝固薬,抗血小板薬),糞便の色と性状(黒色タール便,鮮血など)の聴取が重要である.
・身体所見として肝硬変(腹水,黄疸,肝性口臭,クモ状血管腫)や出血傾向(皮下出血,粘膜出血)を示唆する所見が重要となる.
・下部消化管出血が疑われる場合は直腸診が重要となる(参照A-91).
〔治療〕
1.上部消化管出血の治療
A.内科的治療(保存的治療)
a.輸液:乳酸リンゲル液が基本となる.
b.輸血:輸液でバイタルサインが安定しない場合や,Hb≦7.0 g/dL(かつ,さらに低下する可能性がある場合),Hb<6.0 g/dLの場合,に適応となる.
c.薬物療法(消化性潰瘍):経口用トロンビン®細粒,酸分泌抑制薬の静注・内服➡胃内のpHを上昇させ,血液の凝固を促す.
B.内視鏡的止血法
a.クリップ止血法:噴出性・湧出性出血点,露出血管を直接把持し結紮する方法(機械的止血).A16,26
・癌やポリープの内視鏡的治療後出血の予防と治療にも有用である.
b.熱凝固法:出血部位の熱凝固にて止血と再出血を予防する方法.
・高周波凝固法,アルゴンプラズマ凝固法(APC),レーザー照射法,ヒータープローブ法,マイクロ波凝固法など
c.局注法:組織凝固能のある薬剤を出血部位に注入する.
・あらゆる病変や出血状態に適応される.
・単独よりもクリップ法や凝固法を併用したほうが初期止血や再出血予防に有効である.
①純エタノール局注法:強力な脱水・凝固作用(エタノール)
②高張食塩水+アドレナリン(エピネフリン)(HSE)局注法:血管収縮作用(アドレナリン),組織の膨化(高張食塩水),血管壁のフィブリノイド変性,血栓形成作用
d.薬剤散布法(トロンビン,アルギン酸ナトリウム,フィブリン糊など):凝固作用のある薬剤を出血病変に散布する方法.
・少量の湧出性出血や他の内視鏡止血法の補助として用いられる.
・活動性出血には用いない.
e.結紮術(EVL):出血病巣を吸引した後にバンドで絞扼し閉塞を図る方法(機械的止血).A22
・食道静脈瘤や痔核などで行われる.
f.硬化薬注入療法(EIS):食道静脈瘤や痔核に硬化薬を注入し,出血を防ぐ方法
C.IVR(interventional radiology):動脈塞栓術(TAE),バルーン下逆行性経静脈塞栓術(B-RTO),バゾプレシン投与など
・カテーテルで塞栓物質(ゼラチンスポンジ,金属コイルなど)を注入することで止血を図る.
・内視鏡での止血困難例,ショック状態などの内視鏡施行不能例,大量・反復出血例などに適応される.
D.外科的治療:内視鏡的止血法やIVRでコントロール不能な出血例,短期間に出血を繰り返す例(3日以内に3回)に原則適応となる.
・急速大量輸血を要する例,高齢者で重篤な合併症がある例も適応となる(選択的シャント術などを行う).
E.バルーンによる直接圧迫止血:Sengstaken-Blakemore tube
・食道静脈瘤出血に対して行う(参照A-43).
2.下部消化管出血の治療:多くは原疾患の治療を行う.
【補足事項】
●出血の色調の違いは,胃酸により赤血球中ヘモグロビンが還元されヘマチン(暗赤色)に変化することによる.
●消化管出血では,小腸からの血中窒素吸収量が増加するため,BUN値が上昇しBUN/Cr比が上昇する(BUN/Cr比は消化管出血の他,蛋白過剰摂取,蛋白異化亢進などでも上昇する).また,血中NH3が上昇し,肝性昏睡の原因となることがある.
▶消化管血管異形成(消化管血管形成異常,angiodysplasia):先天性または後天性に生じる消化管粘膜や粘膜下の小血管形態異常.Osler-Weber-Rendu病(参照G-105),胃前庭部毛細血管拡張症(GAVE)19,動静脈奇形(AVM),血管腫,小腸・大腸血管異形成,Dieulafoy病変(参照A-54)などがあり,再発性の消化管出血をきたすことがある.
▶原因不明消化管出血(OGIB:obscure gastrointestinal bleeding):消化管出血が疑われるにもかかわらず,上部・下部消化管内視鏡検査で出血部位を同定できないもの.治療方針が定まらないまま多量の出血に至ることもある.小腸病変からの出血の可能性が高く,小腸内視鏡検査の適応となる.